東京地方裁判所 昭和40年(ワ)4137号 判決 1966年5月10日
参加人 遠藤正義
被告(参加被告・脱退) 株式会社三和銀行
原告(参加被告) 田中須美江
主文
参加人の請求を棄却する。
訴訟費用は参加人の負担とする。
事実
参加人訴訟代理人は「原告(参加被告)の請求にかかる金四〇万円の昭和四〇年四月二〇日東京地方裁判所昭和四〇年(ル)第一一四八号、同年(ヲ)第一二四一号債権差押並びに転付命令に基づく転付債権が参加人に属することを確認する。訴訟費用は原告(参加被告)の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、
(一) 原告(参加被告、以下単に原告という)は請求の趣旨記載の債権について、脱退被告(参加被告)訴外株式会社三和銀行に対し、該債権取立の訴を提起し、訴外田口方子、遠藤方子こと田口雅子が、右訴外銀行に対して有する金四〇万円の預金債権(内金三〇万円は田口方子名義の昭和四〇年二月二二日満期の定期預金、内金一〇万円は遠藤方子名義の同年四月三〇日満期の自由積立預金)について右田口雅子(以下単に雅子という)と原告との問の債務弁済契約公正証書の執行力ある正本に基き、右債権の転付をうけたと主張している。
(二) 然し乍ら前記預金債権の帰属者は参加人であって雅子ではない。即ち参加人と雅子は昭和三五年五月二四日結婚し、相協力して川崎駅ビルにおいて店舗を営んでいたところ、その運営についての意見の相違や又雅子の病気等により漸次円満を欠くようになり、遂に昭和四〇年二月二四日協議離婚するに至ったものであるが、本件預金は右婚姻継続中になされたものであって、参加人自身が田口方子又は遠藤正子の名義を冒用して預金したものであり、現にそれに必要な印鑑も参加人が所持している。
よって右預金が雅子に帰属することを前提とする原告の訴外銀行に対する請求は失当であり、右預金は参加人に帰属するものであるから、これが確認を求めると述べ<省略>。
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、請求原因第一項は認める。第二項中、参加人と雅子がその主張の如く結婚し、協議離婚したこと、川崎駅ビルにおいて協力して店舗を営んでいたことは認めるが、その余の事実は否認
すると述べ<以下省略>。
理由
参加人主張の如き訴外銀行に対する預金債権に対し、原告が差押、転付命令を得たことは当事者間に争がない。
ところで、右預金債権の帰属について按ずるに、証人田口雅子の証言並びに参加人(後記認定に反する部分を除く)及び被告本人各尋問の結果を綜合すれば次の事実が認定できる。
雅子は姉に当る原告から約八〇万円に相当する商品と川崎駅ビル内の店舗二ケース分の権利金五〇万円を借りうけ、昭和三四年三月から洋品店を営んでいたところ、同ビル内で同様店舗二ケースで傘、子供服、ネックレス等を販売していた参加人と相識るに及び、翌三五年三月結婚し(入籍は同年五月二四日)、参加人の店舗二ケースを併せて四ケースとし、洋品店を営むことにし、雅子は参加人と共に商品の仕入れ、販売を行っていたこと、結婚当初は参加人も右原告に対する借財の返済については諒承していたが、結婚後一年半位すると、これが返済に誠意を示さず、又両者間には店舗の経営について意見の対立を生じ度々衝突することもあり、昭和三九年になってから、田口雅子名義の店舗二ケースの契約書を原告が保管していたところ、それを取り戻すよう強く雅子を責めるに及んで、これに堪えかねた雅子は家出したこともあること、その後右ケースの名義を田口雅子から遠藤雅子名義に代え、さらにこれを参加人自身の名義に変えるに及んで、遂に同年一〇月末頃、雅子は追い出されるようにして参加人方を去り、実家に身を寄せ、協議離婚をするに至ったが参加人は雅子名義の店舗二ケースの換価代金五〇万円を雅子に返したのみで、離婚に伴う財産的処理については現在なお話合いが行なわれていないこと、雅子は通称として方子名義を使用していたこと等の事実が認められる。
ところで<省略>、金三〇万円の定期預金は田口方子という雅子の通称をもってなされ、それが預金されたのは昭和三九年四月二二日であること、又<省略>金一〇万円の積立預金は姓は遠藤とされているが前同様方子の通称が用いられ、その預入は昭和三九年四月三〇日から同年一二月一五日迄毎月金一万円ないし一万五千円宛預金されていることが明らかであるところ、前認定によれば雅子は結婚前より店舗二ケースを有し、参加人の妻であると同時にいわば参加人の営業の共同経営者ともいうべき立場にあったといえるから、同人名義の預金があったからといって敢て異とするに足りない。(本件預金以外に雅子名義の預金が存在することについては何等これを認めるに足る資料はない)のみならず、右預金が開始された頃は既に参加人と雅子との間には、相当深刻な対立が生じていたことが推認されるから、このような状態において方子名義でなされた預金である以上それに使用してある印鑑を参加人が保管しているからといってこれをたやすく参加人に帰属するものと認めることはできない。尤も積立預金については雅子が参加人のもとを立去った後において預金されているものもあり、これが雅子によってなされたものか、或は参加人がなしたものか判然しないが、仮りに後者だとしても、雅子の復家を期待して、同人に贈与する意思のもとに、これが預金を参加人において継続したものと解せられないわけではないし、果してそうだとすれば、雅子と離婚し、更にそれが債権者によって差押えられた現在、これを参加人が自己の預金と主張することは許されない。
これを要するに、本件各預金が参加人に帰属すべきものと認めることは到底できないから、参加人の請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。